約 1,601,027 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2016.html
戦うことを忘れた武装神姫 その41 係長という肩書きにより、取引先からいただく事が出来た高級ビールが、いくら探しても見当たらない。昨晩まで、たしかにこのテーブルの上にあったのに。 諦めて、麦茶にしようと冷蔵庫へ向かったそのときだった。 がたん、どす! 中身の入った飲料缶が落ちる音がした。 振り返ると、そこには小さなロボットがビールの缶に半ば押しつぶされるかのごとく倒れている。 「・・・ディーニャ・・・ お前、何してたんだ?」 マオチャオ型をベースに東杜田技研で試作されたMMS、type T-TAK「ディーニャ」。 白色に緑色のペイントが施された素体、髪はロングのアップポニー。アタマには大型のはんぺんネコミミを装着し、手にはにくきゅうグローブを装着しつつも、目と口元にはマオチャオの面影が色濃く残る。 ビールの缶をのけて、まだ目を廻しているディーニャを摘み上げた。 「起きろっつーの。 狸寝入りしてるのバレバレだぞ。」 ふにふにとネコミミを突付くと、くすぐったさを我慢できなくなったのだろう、もぞもぞと動き始め・・・ 「にゃ、や、やめるのだ! やめろー!!!」 手の中でジタバタと暴れるディーニャ。 摘んだまま顔の高さまで持ち上げ目線を合わせると、バツが悪そうに目を泳がせるディーニャ。 「さて、今何をしていたのか。 正直に言いなさい。」 眼力で迫ると、ディーニャはネコミミをふにゃりと垂らし、 「にゃは・・・びーる、のみたかったのだ・・・」 相変わらずの酒好きめ・・・。 「だから、びーるかくしてたの。こかげのだいじ。 あきかんと、いっしょにするとわからにゃいの。」 本来は、旅のお供のサポート神姫としての研究開発が進められていたディーニャ。 しかし、マオチャオ型をベースとしてしまった上、我侭に育った小型ロボットのAIを用いてしまったが故に。 妙なところで知恵の廻る、いまひとつ使えない旅サポート神姫となってしまったのだ。 かといって、ある程度は成果をあげているこのプロジェクト、ひとまずはディーニャの育成を進めてみることに・・・なったのである。 そして。 プロジェクトに関わっていながらも神姫を持っていなかった俺が、当面の教育係となってしまった、というわけだ。 「にゃーさん、ごめんにゃさい。」 テーブルの上で、素直に謝るディーニャ。だがこいつの場合は「素直に謝ればビールが飲める」ことを期待しての行動に他ならない。 ポニーテールを揺らして謝る姿はかわいいが、ここは心を鬼にしなければならない。 「ふむ。だが、独り占めしようとしたことは罪である。よって、このビールは俺が飲み干す。」 泣き出すのではないかと思うほどに目を潤ませ、ビールの口を開けて飲もうとする俺を凝視するディーニャ。 耐えろ、耐えるんだ・・・っ! ディーニャの視線を痛いほどに感じつつも、俺はビールをぐびっとひとくち。すると、ディーニャはぴょんとテーブルから降りて。 「いいもーん! まだかくしてあるびーるはいっぱいあるんだからー!」 そういいながら、俺の散らかりきった部屋へと駆け込んでいった。 ・・・まだ・・・隠してある・・・?! 「ちょっと待て! お前いつの間に!!! どうりで最近、酒の減りが早いと思ったよ・・・! こらディーニャ!どこへ隠しているんだ!!」 「にゃはー! それはひみつにゃのだー!」 -今宵も、ディーニャとの追いかけっこは続く-。 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/jikkyomin/pages/169.html
解説 雑談 「MX・tvk・テレ玉・チバ・群馬・とちぎ実況 ★ 40947」 http //hayabusa2.2ch.net/test/read.cgi/weekly/1401540811/ 683 名前:LIVEの名無しさん[sage] 投稿日:2014/05/31(土) 23 31 09.77 ID Qd0FsIk0こういうのよりひだまりと武装神姫みたいにふつうのコメンタリーやってほしかったな718 名前:LIVEの名無しさん[sage] 投稿日:2014/05/31(土) 23 31 30.53 ID p/DlJE6p 683武装神姫2期やらんかなあ788 名前:LIVEの名無しさん[sage] 投稿日:2014/05/31(土) 23 32 14.74 ID eHSRbSnZ |ヽ | | | .\l騙lノ....| | | _〔【》}w0|〕_.| | |./三/(=鎧=)ミ}=== .U/[[ 8)]]、つ目 く/U/ U 718 もうコンテンツ自体が虫の息状態だよ…需要はまだあるというのに。 …ちなみに[[オディ]]の保有機体がまた一機増えた859 名前:[[シュナイダー]][不愉快です×29] 投稿日:2014/05/31(土) 23 33 04.61 ID zLqtNDjA 788アニメやるから再販期待したんだけどなあオールベルンしか持ってねえ899 名前:LIVEの名無しさん[sage] 投稿日:2014/05/31(土) 23 33 38.53 ID eHSRbSnZ |ヽ | | | .\l騙lノ....| | | _〔【》}w0|〕_.| | |./三/(=鎧=)ミ}=== .U/[[ 8)]]、つ目 く/U/ U 859 どのベルンだ。972 名前:シュナイダー[不愉快です×29] 投稿日:2014/05/31(土) 23 34 31.71 ID zLqtNDjA 899金髪の884 名前:LIVEの名無しさん[sage] 投稿日:2014/05/31(土) 23 33 28.70 ID p/DlJE6p 788そもそもアニメやってた時点でコンテンツ放置状態だったらしいなw989 名前:LIVEの名無しさん[sage] 投稿日:2014/05/31(土) 23 34 44.01 ID eHSRbSnZ |ヽ | | | .\l騙lノ....| | | _〔【》}w0|〕_.| | |./三/(=鎧=)ミ}=== .U/[[ 8)]]、つ目 く/U/ U 884 何故神姫は“KONAMIディ生まれてしまったのか”… 2/22の聖戦の日あの場所に2000人近い人が詰めかけたというのに833 名前:LIVEの名無しさん[sage] 投稿日:2014/05/31(土) 23 32 42.08 ID OnkbW+Vg 718リヒリヒトさんは頑張ってた
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1016.html
武装神姫飛鳥ちゃんエウクランて 登場神姫 飛鳥(エウクランテ型) 本編の主人公 起動直後は「武装神姫は戦う為の存在。勝つためには心なんて不確実な物は不要」と思っていたが、美孤の愛情に触れ考えを180°改める 亜矢華から美孤の事を頼まれ責任を感じている (ちなみに亜矢華から受け取ったツールは、本来BMAから美孤に「処方」された物) 美孤(マオチャオ型) 飛鳥にお姉様と慕われる神姫 実際、柏家の神姫では一番の年長で長女と言える存在 明るく元気だけが取り柄のようで、意外と気配り屋さん こう見えて実はファーストランカー(上がったばかりであるが) フブキ、マオチャオ、アーンヴァルの武装を組み合わせた装備をメインにしてる (全てチューンナップされている) ちなみに、紫蘭には隠しポケットが付いており、この中にヴズルイフ2丁とアーマーシュナイダー2本が隠されていて、高回避型を相手にするときはギガンテスをウイングにマウントしてハンドガンとナイフで戦う 「マッドネスキャット(狂気の猫)」と呼ばれ、一部では恐れられている 実は『神姫性性同一障害』という厄介な症状に冒されている エアル(アーンヴァル型) 柏家の次女神姫 一応セカンドランカーなのだが、戦うよりも機械いじりが好き そしてなにより可愛い服が好き シミュレーターの操作をする等、裏方に回って姉妹を支援する 小鉄(ハウリン型) 耕介の友人、祐太朗の神姫 セカンド上位なのだが、なぜか美孤と対戦での相性が悪く、勝てない日々が続いている それを晴らそうと会うたびに対戦を挑むが、それがポイントを落としている原因となっている クロテン(アーンヴァル型ブラックヴァージョン) 耕介の友人、祐太朗の神姫 あまりといえばあまりなネーミングだが、祐太朗もクロテン本人も可愛いと気に入っている 飛鳥とほぼ同時期に起動している その実力は…? 亜矢華(あやか・ジルダリア型) 一太郎の神姫 バトルには参加しないが、実力はカナリある、との噂 通常、ジルダリア型はそのせくしぃな容姿から服を着ている事が多いのだが、亜矢華は服を着ず、下着姿で店内をウロウロしている 前の髪飾り2個を通常の物に偽装した「あなたも狼に変わりますか」と交換している 実はBMA公認の神姫心理カウンセラーだったりする 結構えっちだが、あくまでレズっ気であり『神姫性性同一障害』では無い 宝華(ほうか・フォートブラッグ型) 一太郎の神姫 一太郎の助手として頑張っている神姫 よく亜矢華にいぢめられる(性的な意味で) 相当えっちだが、あくまでレズっ気であり『神姫性性同一障害』では無い 魔土華(まどか・ジュビジー型) BF三姉妹と呼ばれているが、実は一太郎の妻である千奈乃の神姫 よく一太郎の仕事を手伝ったりしている良く出来た神姫 でも亜矢華と共に宝華を(性的な意味で)いぢめたりしてる 割とえっちだが、あくまでレズっ気であり『神姫性性同一障害』では無い 登場人物 柏 耕介(かしわ・こうすけ) 美孤・エアル・飛鳥のマスター。顔は並(飛鳥談) ごく普通のサラリーマン。家は若干裕福な方 両親と三人で暮らしていたが、急に「海外で暮らす、あとはまかせた」といって両親が海外へ移住(戸籍は日本のまま)してしまった為、広い家に一人で暮らす事になった 実は神姫ちゃん~の香田瀬の大学の先輩であった メカ部に所属していたが機械いじりは得意ではなく、操作の腕を買われての在籍であった 柳家 祐太朗(やなぎや・ゆうたろう) 小鉄・クロテンのマスター。メガネを掛けている。顔は良いようだ(飛鳥基準) 耕介の幼なじみだが、大手商社に勤めていて耕介よりも収入が良い が、並の賃貸アパートに一人で暮らしている 今井 一太郎(いまい・いちたろう) ワークショップ『MACHINE FRIEND』のオーナー 大学時代、弱小だったメカ部を全国区レベルまで上げた伝説の人 その為、OBとしてちょくちょく顔を出していた為に香田瀬と面識があったりする (余談だが、香田瀬が入った頃には弱小部に戻ってしまっていたが、香田瀬の活躍でメカコンテストで優勝するまでになった。この時、メカを操作していたのが耕介だった) 彼の祖父はかつて大企業グループの下請けとしてメカ工場を経営していたが、突然のグループ解体により工場を閉鎖せざるを得なくなってしまった 父は現在、大企業の技師として働いているが、祖父の話を聞いて育った一太郎は『マシンフレンド』を現在に復活させた 今井 千奈乃(いまい・ちなの)※現在未登場 一太郎の妻 仕事には一切口出しをしないので、今後も出番が危ぶまれている
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1813.html
戦うことを忘れた武装神姫 その39 暖かな夜。 持ち帰った仕事が終わり、ふと見回せば・・・先ほどまでちょろちょろと走り回っていた神姫たちはもうお休みの時間。イオとリゼは仲良くひとつのクレイドルで、エルガは相変わらずのぬくぬくこたつで、シンメイは俺のベッド上に置いた試作の布団型クレイドルでニヤニヤとした笑みを浮かべて・・・。 机周りをざらざらと片付けてコップ2つ分のスペースを開けて。 静かに置くは、親父が旅行の土産で買ってきてくれた余市のシングルカスク20年の小瓶と、昨夏に俺が小樽で買ったショットグラス。 工作加工用具・資材に仕事の資料と、散らかりきった机の片隅。 蒼色のグラスに琥珀色の液体を注ぐと、ほのかな香りが嗅覚を刺激した。 そっと傾けて、口の中に広がる香りと、時を含んだ味を、ひとり静かに愉しむ。 もうひとくち飲んだところで椅子をリクライニングさせて身体を沈め、酒の余韻と仕事を終わらせた解放感に浸る・・・と。 つい今しがたまでぬくぬくこたつで寝ていたエルガの姿が見えない。どこへ行ったものかと見回せば、いつの間にやら小瓶の脇に立ち、手にした小さなカップをちょっと照れたようにそっと差し出した。 「えへへ・・・香りに誘われたの。 にゃーにも、ちょーらい♪」 俺はビンの蓋を再び開けると、肉球の描かれたエルガ専用のカップ -といってもエルガの顔より一回り小さいだけなのだが- にそっと注いでやった。サブPCのマウスに腰掛けたエルガは、一丁前にもカップを動かしてカスクを廻し、くんくんと香りを愉しんでからひとくちだけ含み、大きな瞳を閉じ。しばらく思いに耽るかの如くじっとしていたが、ふと何かを思い出したのだろうか。カップを傍らに置くと、ぴょんぴょんと、しかし他の神姫を起こさぬように静かな足取りで机の上のごちゃめきに潜り込むと、なにやら後ろ手に隠して戻ってきた。 「にゃーさん、あのね。 ・・・春のかけらをつかまえたの。おさけにいれてもいい?」 ふむ、何を見つけたのやら。少し期待しつつ、エルガの前にグラスを差し出すと・・・おそらく風で入ってきたものだろう、桜の花びらを一枚、ひらりと落とした。 デスクライトに照らし出されたカスクに浮かぶ、淡い色の花びら一枚。 「そうか、もうこんな季節になってたんだよなぁ・・・。」 エルガは再びマウスに腰掛け、カップを手にとってもうひとくち味わうと。 「えへへー。 今年はにゃーさんよりも先に春をつかまえたのー。」 と、そして誇らしげに俺に言った。 「ははは。今年はエルガが春の使者になったねぇ。 よしよし・・・今度の週末は、みんなで花見に行こうか。」 優しく頭を撫でると、エルガは目を細めつつ・・・カップを差し出し、おかわりのおねだり。俺は再びビンの蓋を開け、えるがのカップに注ぎ、そして自分のグラスにも・・・花びらを沈めないように、そっと継ぎ足した。 ・・・エルガたちと出会ってから、何度目の春になるのだろうか。 こうやって、ちんこまと春を楽しむのも悪くないもんだ・・・と思った、そのとき。 「このまま、みんなで・・・ずーっと、変わらにゃいですごせるといいの。 みんなで、なんかいでも春をつかまえたいのだ。」 まるで俺の心を見透かしたかのように、エルガがぼそり呟いた。 グラスを口に運ぶ手を止めてエルガの顔を見れば、一緒に呑もうよと誘うようにニコニコとカップを差し出した。 俺は小さく頷き、エルガが作った春のカスクを身体に染み入らせつつ、 「よーし。来年の春は、俺がエルガに春を持ってきてあげよう。負けないぞ~!」 と言うと。先にカップを傾けていたエルガは、ニヤリと目元で返事をした。 いつまでも、この「時」が、途切れる事がないように-。 願いつつ、戦うことを忘れた神姫と共に・・・時を呑み、季節を味わう夜-。 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/562.html
戦うことを忘れた武装神姫 その19 ・・・その18の続き・・・ 名無しとリゼの「勝負」は、開始早々から大変な迫力になった。 リゼがポイントへ近づくや否や、トラップが作動。巨大な落とし穴と、左右 の建物の崩壊。加えて何の為なのか疑いたくなるほどの大量の爆発物。 しかし、リゼはパワーユニットを過負荷使用させ、さらには強化されている ボディを駆使し、回避に回避を重ね、砂埃が収まったときには、名無しの前 に無傷のリゼが立っていた。 「・・・流石ですね。 ならば・・・っ!」 トラップがダメと解ると、今度は3次元の移動 -すなわち立体的な移動- を 伴った スタイルで、ランチャーを打ち出す。しかしこれらも優々と回避され てしまう。 次々に隠し武器を掘り出しては撃ち、砲撃し、斬りかかる名無し。 対して、パワーユニットを背負った鈍重なスタイルで、たった一丁の銃しか 持たないリゼ。 だが、優位に立つのは・・・リゼだった。 ギャラリーも店員も取材陣も、その勝負に釘付けとなった。 このセンター 始まって以来の、最も熱い試合。 まさに武装神姫たる、カッコイイ戦いが 繰り広げられていた。 その光景に、サイトウは言葉を失った。 自分のストラーフは、決して手抜きをしているわけではない。むしろ今まで に見たこともないレベルの動きを見せている。 『そうだ、やつの背中のパワーユニットを狙え!』 サイトウが叫んだ、その時だった。 サイトウの声が耳に届いたかどうかは わからないが、リゼはパワーユニットを・・・捨てた。 『な・・・何だと?』 パワーユニットを捨てた後でも、互角の戦いを見せるリゼ。 かつて自分が 「名無し」であったころの経験に、戦いを忘れていた間に積んだ「日常」が プラスされたリゼは、技のキレも、迫力も、全てが勝っていた。 名無しの武器は次々に撃破・破壊されてしまった。隠し武器もつ尽き、丸腰 になった名無しは、サイトウに声をかけた。 「Mr.サイトウ、これで解りましたか?」 『・・・。』 サイトウは何も答えない。 -いや、答えられない。 「負けを・・・認めなさい。 あなたの下で、私はこれ以上の勝利を収める こと勝つことは出来ません。」 『・・・。』 歯ぎしりをしたまま、押し黙るサイトウ。 その姿を確認した名無しは、 「もう結構です。 -ジャッジシステムへ。当方、戦闘継続不可能。よって 本試合の終了を。」 自ら負けを申告した。 「勝者、リゼ・ストラーフ!! よって、久遠チーム、勝利!!!」 ジャッジマシンが試合終了を告げた。沸き立つ店内。 久遠の元へは、ドッ と取材陣が押し寄せる。 フィールドでは、リゼと名無しが抱き合い、涙を流していた。 「リーダー・・・おかえりなさい・・・。」 「貴女こそ、あの時の言葉の通り、先頭に立てる神姫に・・・。」 その様相に、つられて涙するギャラリーもあり。 そしてサイトウは・・・ 押し黙ったままであった。 「くそっ、ちくしょう!」 サイトウは立ち上がると、足元に置かれた神姫たちの入ったボックスを右足 で蹴り飛ばそうとし・・・誰かにアシを引っかけられてそのまま前に倒れ、 顔面強打。 「話は聞いていたけど、想像以上にアレなヤツだねぇ、あんたは。」 そこに立つのは、いつの間にか移動してきていたCTaだった。 「おまえ、いったい何者だっ!」 「名乗るほどのものではないが・・・一人の神姫愛好者として、今の行動は 許せないなぁ。」 「お前なんかに、勝たなけりゃならない俺の気持ちがわかるものかっ!!」 サイトウが拳を振り上げた、その時だった。 「ぐふっ!」 人垣を器用に抜け出した久遠がサイトウの前に立ち、手首を使い鳩尾に一撃 をすばやく与えていた。 「・・・さすがの俺も、怒るぞ。」 久遠の滅多に見せることのない怒りに、彼の神姫たちも、CTaも驚いていた。 もだえるサイトウ、見た目に依らずヨワゾウだった模様。。。 と、にわかに店の入り口がざわめいた。 やってきたのは、なんと警察官。 わらわらと数人が入ってくると、ずかずかとサイトウを取り囲み- 「ハロルド=サイトウ。窃盗、器物破損容疑、および恐喝容疑で逮捕する。」 「な、何をするんすかっ! 何の権利があって俺を逮捕す・・・」 抵抗するサイトウだったが、CTaが取りだしたものを見るや否や、固まった。 「証拠もなにも、この娘が全部喋ったよ。 データとしても残っているし。」 CTaが取りだしたのは、騎士子のディサだった。サイトウはがっくりとうな だれ、2人の警察官に引きずられるように店の外へと出ていった。 突然のことに何が何やらさっぱりの久遠たち、ギャラリー、そして店員。 「・・・俺はどうしたらいいんだ?」 事情が解らない久遠がCTaに聞くと、CTaは大きな声で言った。 「神姫とそのオーナーが、犯罪摘発に一役買ったよっ!!」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 昼休みを延長し、久遠の様子を見に来たCTaは、入り口付近で偶然、逃げ出 してきたディサを拾い上げた。最初はオーナーとはぐれた神姫かと思い話を 切り出したが、なんとサイトウの神姫・・・。久遠達の話をすると、ディサ はサイトウに関することをほぼ全て話し、CTaは観戦前に警察へ一旦向かい、 手配をした後に久遠たちの元へ出向いた・・・と言う流れだったようだ。 その後、ディサを始めとした神姫たちの証言と残されたデータから、様々な サイトウの悪事が噴出した。彼は恐喝ともとれる賭け試合で、他人の神姫を 没収したり、あるいは自分より強い相手の神姫を盗みだし、自ら作ったプロ グラムでコアに強制プロテクトをかけ、あたかも自分の神姫のように使い、 勝利を収めていったらしい。 ・・・その結果として、機械としてしか見て いなかった神姫に足を掬われる形となったわけだが。。。 サイトウは全ての罪状を認め、有罪判決を受けることになる。 彼の神姫は没収され、ディサ、ベルタを始めとした盗難あるいは恐喝でとら れた神姫は、元のオーナーへと無事に帰っていった。また、元から彼のもの であったアスタとコリンは、過去を償いたいとのことで、リセットの上M町 のセンター店長が引き取ることに。 いずれの神姫も、CTaとMk-Zの手により、プロテクトの解除だの補修がなさ れて帰っていったことは言うまでもない。。。 その中で、元のオーナーの元へ帰らない選択を自ら選んだ神姫がいた。 元の、リーダーであったストラーフである。 CTaが警察関係者にも働きかけ、なんとか元のオーナーを見つけだすも、彼 はすでに別の神姫と共に新たな生活をしていた。 戦うための神姫ではなく、 子供の遊び相手の神姫を持つ、穏やかな男となって。。。 プロテクトの解除・消去と、修復を終え、CTaと共に元のオーナーに面会に 来たリーダーだったが、彼のその姿に、自らのコアをリセットせざるを得な かったと伝えるよう頼み、自分は会わないと告げた。 CTaは黙って頷き、 付き添いの警官と共に彼の元へ。十数分後、戻ってきたCTaは、リーダーに 一言だけ告げた。 「お前の幸せを祈っているって。 まるで、一人娘が嫁いでいくときの父親 みたいに泣いてたぞ。」 リーダーは、その言葉だけで充分だった。 さようなら、私の心のマスター。 そしてありがとう・・・。 かくしてリーダーは、名目上はコアをリセットされた神姫となり、新たな オーナーの元へ。。。 で、久遠はといえば・・・。 この一件で「神姫と共に犯罪を暴いた男」として一躍時の人に。ワイドショー に出演したり、雑誌の取材を受けたり。彼の神姫たちも、それぞれの雑誌や ウェブTVなどにも出演したらしい。。。 が、それもわずか数週で熱も冷め、徐々に他の話題、情報に埋もれていった。 また目立つことを良しとしない久遠は、熱が冷めるとすぐに、マスコミの前 から姿を消して、いつも通りの生活に戻っていった。もちろん彼の神姫たち も同様に、久遠と何ら変わらない生活に。 戦うことを忘れ、まったり、のんびり・・・。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あの勝負から1ヶ月が過ぎた。 「みんな用意したかー?」 久遠がバイクスタイルで玄関に立つ。 「はいよー。」 「お待たせしました。」 リゼとシンメイも、バイク対応スタイルで現れた。リゼは、久遠に買っても らった新しいゴーグルを装着。羨ましそうに観察するシンメイ。 「・・・あー、わかったわかった。 帰りにシンメイにも買ってやるから。」 「べ、別に無理に買って頂かなくても・・・」 「いや、しっぽが反応してるし。」 「あ・・・。」 縦に振るしっぽを指す久遠に、あわててしっぽを押さえるシンメイ。 「ずるーい! にゃーにも買って〜!」 「あらぁ・・・マスター、リゼにだけ買ってあげたんですか?」 遅れてやってきたエルガとイオも、嫉ましそうにリゼのゴーグルを指した。 「あー、もう・・・ わかったよ! どうせ早く出るんだ、先に買ってって やるよ、みんなの分!」 「ありがとーございます!」 口を揃えて言う3人の横では、困り果てた久遠の顔にリゼが笑い転げていた。 久遠と神姫たちは、ゴーグルを買い求める為にいったんT市に新しくできた 神姫グッズショップへ立ち寄り、改めて向かうは- -M町のセンター・・・。 M町のセンターには、イベントがあるのだろうか、ずいぶんと人が集まって おり、雑誌社やウェブTVの腕章を着けたプレス関係もちらほら。 久遠たちが着くと、そこで待っていたのは、かえでとティナ、そして・・・ 「お待ちしておりました。」 かえでの肩の上で手を振るのは、頬にマーキングを持つストラーフ・・・、 そう、元の「リーダー」であった。 ・・・>続くっ!>・・・ <その18 へ戻る< >その20 へ進む> <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1340.html
戦うことを忘れた武装神姫 その36 日付も変わった深夜。 久遠は、自宅から少しはなれたところでバイクのエンジンを切り、押して駐車場へ。静かにバイクを止め、階段をコソコソと昇り、そっと鍵を開けて部屋に入る。 「ただいまー。」 小さく呟くながらキッチンの明かりだけをつけ、ホッと一息をつく。すでに夕食はコンビニで済ませている。 歯を磨きながらシャワーを浴び、着替えを済ませて静かに自室へと入った。 薄暗い部屋の中、それぞれにクレイドルをおいて眠る神姫たち。イオは机の上で標準型に腰掛けて。リゼは和壱型で布団を蹴飛ばし大の字になり、エルガはぬくぬくこたつから頭だけを出して。 だがー。 シンメイが、いない。いつもはこの辺で寝ているはずなのに・・・。 久遠は音を立てぬように、シンメイを捜索する・・・と。 「なんだ、こんなところにいたのか。」 積み上げられた本の陰で、丸くなっていたシンメイを見つけた。 純正を改造して作ったバケットシート型のクレイドルからも外れ、本とDVDの隙間に入り込むような形で・・・。 「ちゃんとクレイドルで寝ないと、バッテリー切れ起こすぞ。」 そっとつついて起こす・・・と。 「くぅん。。。 ママぁ。。。」 か細い声と共にもそり身体を起こしたシンメイは、潤んだ瞳で久遠を見つめた。 また寝ぼけてるな・・・そう思いながら手のひらを差し出すと・・・何だか様子が違う。 手のひらのニオイを嗅ぐ仕草を見せ、ちょこんと座ると、 「ママじゃないよぉ・・・ママは・・・どこ?」 と、指をしゃぶりながらじっと見つめ続ける。 「えええ!?」 手の上でごろり横になって再び小さく丸くなる。 「ママはどこ? ねぇ、おにいちゃん。」 「い、今はでかけているから・・・しばらくここで休んでいたらどうだい?」 うろたえながらも、久遠が頭を撫でながら言うと、小さく頷いた。 はてさて、どうしたらいいものか。 台所で、コーヒー片手に考える久遠。 左手にはエルガのようにじゃれついてくるシンメイが乗っている。 すでに2時半を過ぎた時刻を指す時計のコチコチという作動音に、時折ちゅっちゅっと、シンメイが指をしゃぶる音が混じる。 何かに怯えるような瞳で不意に見つめるが、そっと頭を撫でてやると・・・緊張が解けるかのように、シンメイの脚の力が抜けるのが久遠の手のひらに伝わる・・・。 こんなことは、今までになかった。 故に、対処方法がわからない。 右手で携帯を駆使して調べるものの、スッキリとした回答が得られない。 傍らに置いた3杯目のコーヒーがすっかり冷めたとき。 「あ、マスターでしたか。」 ふと、足元からの声。 イオが起きてきた。 「物音がしたので気になって来たのですが・・・あら? シンメイ。」 久遠の左手に乗るシンメイに気づいたイオは、もそもそと足をよじ登ってテーブルの上へ。 「こんな夜更けに、何をしているんですか?」 イオが、相変わらず指をしゃぶるシンメイにそっと声を掛けた。 「あ。ママ・・・!」 顔を上げたシンメイがとった行動は、久遠も、イオも、想像もしていなかったことだった。 「ちょ、ちょっとどうしたんですか一体! こらシンメイ!」 ぽふ。 イオの胸に、顔をうずめるシンメイ。 赤子が母親の匂いを確かめるかのようにぎゅっと顔を胸に当てて・・・心底安心したような穏やかな笑顔を浮かべた。 「おかえりなさい、ママ・・・。」 ぎゅっと抱きつくシンメイに、イオもまた困惑した表情を浮かべ、久遠を見つめた。 久遠は、これまでの経緯を -といっても、様子がおかしいというだけのレベルではあるが- イオに伝えた。 すると。 何かを思いだしたのだろうか、久遠からシンメイの笑顔に視線を移したイオの表情が一転、まさに母親のような穏やかな顔付きで、シンメイの頭をそっと抱いた。 「寂しかったのね・・・。でも、もう大丈夫。今夜は、ママがずっと一緒にいてあげますよ。」 こくり。イオの腕の中で頷いたシンメイ。 そして、決して上手いとは言えないイオの子守歌が静かに響いた。 >>続くよっ!!!>> >>その37 へ・・・ <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2275.html
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/857.html
戦うことを忘れた武装神姫・各種設定-2 ちっちゃいもの研の中の人たち。 登場人物 ちっちゃい物研とは 主要技術解説 登場人物 Dr.CTa(木野羽さんご) ちっちゃい物研(下記参照)の研究員 沙羅・ヴェルナのマスター、久遠とは大学の同期(腐れ縁) メカを大事にしない者は大嫌い 愛車は1400ccの国産大型4気筒バイク、ヨツワは無し 沙羅(Sala)(紅緒・改) 好き:青空、白桃缶詰 嫌い:雨(過去の記憶) 属性:熱血 ヴェルナ(velna)(サイフォス・改) 好き:こたつ、みかん 嫌い:孤独(過去の記憶) 属性:頭脳派 アルテミス(Artemis)(ゼルノグラード) 好き:お絵かき(同人誌描き)・模型組み立て(フィギュア) 嫌い:締切を破ること・美しくない造形 属性:腐女子 Mk-Z(水間崎(みまさき)) ちっちゃい物研(下記参照)の研究員 マーヤのマスター(おにいさま) CTaの一番弟子・久遠の高校の後輩 容赦なくCTaに偽名を付与された、お人好し メカを大事にしない者は逝ってよし マーヤ(Maaya)(ツガル) 好き:おにーさま(Mk-Z) 嫌い:納豆(ネバネバするもの) 属性:超絶妹 リーヤ(Lilja)(ジルダリア) 好き:酒 嫌い:乾燥 属性:イケイケ サーヤ(Sarya)(ジュビジー) 好き:マーヤ 嫌い:暑さ 属性:妄想暴走系 係長(Subsection Chief) ちっちゃい物研(下記参照)の開発部係長。 華麗なる独身貴族。ディーニャ(下記参照)の 開発担当のひとり。 酒と温泉があれば幸せ。 ディーニャ(D-Nya)(T-TAK) 「森に住む猫」をイメージし、東杜田技研にて試作された旅サポートMMS。 好き:酒 嫌い:たいくつ 属性:ワガママお嬢 ちっちゃい物研とは ちっちゃい物研とは通称名であり、正式には 「(株)東杜田技研・小型機械技術研究製作部」 という大変に長ったらしい名前。KHINIグループの研究開発部門 が子会社化された会社で、従業員は50人程度。 なので、正職員でも「ちっちゃいもの研」と、名刺に入れる者が いるほど。基本的には医療分野を始めとした各種マイクロマシン の研究を行っているが、片手間に汎用の小型ロボットの研究開発 や改造・修理も請け負っている。 ここで勤務する「Dr.CTa」は医療分野が主な研究分野であるが、 ちっちゃい物研でも指折りのロボット愛好家で、また改造、特に 補修技術に関しては相当の評価がある。(その方面での論文を出 した実績もある程。) ちなみに久遠は、医療分野での絡みから、CTaとの交流を持って いる。(もっとも、先の通りCTaとは大学が同期でもあるのだが。) 久遠の依頼で沙羅、ヴェルナの治療(修復)を行った。また久遠の 神姫達の定期健診も、久遠の「腐れ縁」という立場を利用しタダで させられているらしい。 そのかわり、久遠の神姫に「食物消化-エネルギー変換機構」を搭載 させ実験台としている模様。 主要技術解説 食事機能(久遠・Dr.CTa所有の神姫に搭載されている機能) 食事機能は、Dr.CTaが自らの技術に関する論文を書くために行って いる研究(実証実験)のひとつ。 Dr.CTaは「食事により全エネルギーを賄う」方向と人間(オーナー) との「コミュニケーション手段としての食事」と捉える方向の、二つ のテーマで「食事機能の開発研究」を進めている。 最終目標は上記の2テーマを統合・実用化することであるが、まずは それぞれを「実用」レベルへ持っていくことが目標とか。 ようやく実証実験できるまでこぎ着けたようで、体よく転がり込んだ 久遠の武装神姫、また自らの神姫を用いデータ収集している。 前者の「エネルギー重視型」はCTaの所有する沙羅・ヴェルナに搭載、 味覚センサー等は簡易的な物とされいる。従って、「味音痴の大飯 食らい」とでも言うべき性格である。そのかわり、クレイドルでの 休養(充電)は、データ等のバックアップする間のみ必要なレベルに まで達しているらしい。 いっぽう、久遠の神姫達には後者のコミュニケーション型が搭載され ている。特に味覚を始めとしたセンサー類が充実しており、それぞれ の神姫達に「嗜好」が生じている。しかし、エネルギーの変換効率は あまり向上しておらず、食べたものをエネルギーに変換が『出来る』 程度。当然、食事のみで全エネルギー(電力)を賄う事は出来ず、 クレイドルでの休養は、通常のモデル通り必須である。 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1341.html
戦うことを忘れた武装神姫 その37 <<その36から。。。<< 外で新聞屋のバッテリーバイクが走り廻る頃。 イオの膝の上で、シンメイは指をしゃぶりながら小さな寝息を立てていた。 「こいぬがえり、と呼ばれている症状のようですね。」 シンメイの頭をやさしく撫でながらイオが続けた。 「極希に、特にマスターを心から慕うハウリンやマオチャオに出現する症状ようです。以前、技研に来たケモテックの技術者の方が言っておりました・・・。」 CTaの所へ遊びに行った際にでも聞いたのだろうか。 「元々ハウリン・マオチャオは寂しがりやなんです。 特にシンメイのような性格だと、寂しさを内にこめてしまう傾向もありますし・・・。」 思い返せば・・・前兆は、確かにあった。 数日前の朝。 普段は食事中にちょっかいを出してくる事がないシンメイが、エルガと一緒に。。。 それだけではない。 一昨日などは帰宅するまで起きて待っていて、いつまでもうしろを付いてきていたっけ。。。 何故、気づいてあげられなかったのか。考え込む久遠に、 「みんな・・・毎日待っていたんですよ、マスターの帰りを・・・。」 といいながら、イオは涙をシンメイの頭の上にぽたりと落とした。 「忙しいのは解りますが、せめて、せめてもう少し・・・。」 ぽたり。 またひとつ、大粒の涙が落ちた。 「私たちのことも、見つめてください・・・。」 ・・・このところ、忙しさに追われ、ろくすっぽ神姫たちに目を向けていなかった。相手にもなってやれなかった。 思い返せばかえすほど、神姫たちがどういう思いをしていたのか・・・。胸の痛みに、思わずイオの顔を覗き込んだ。 ・・・シンメイを抱き、口元には静かな笑みを浮かべるものの、蒼い瞳は涙で潤ませた顔が・・・久遠の心にトドメを刺した。 神姫たちだけではないな・・・。 左手のイオとシンメイを、そっと傍のタオルの上へ乗せ、椅子に深く腰掛け腕を組み目を閉じ。 ただがむしゃらに、必死に走り続けなければならないときもある。 しかし、そんな時だからこそ、自分自身を見つめる瞬間が必要なのかもしれない。 ふと目を開け、右手にまだ残る傷跡を見つめた久遠。 そういえば・・・あの時以来、あいつにも会っていない気がする-。 わずかな間に、なんと大きなものを・・・ たくさんのものを、置き去りにして走っていたんだろう。。。 迷う必要はない。 ここで、一歩踏み出すべきだろう・・・。 イオの頭をそっと撫でて、久遠は立ち上がり。 自室の机の引き出しから、書きかけの書類を取り出し、仕上げにかかった。 -「今」を見直す鍵を開けてくれた、小さいけれど大きな存在に感謝をしながら-。 それから一月の後の朝。東杜田の正門前に、久遠のバイクが止まった。 ヘルメットをいったん脱ぎ、傍らに立つ守衛にIDカードを提示する。 「おはようございます。今日からはゲストカードではなくて、社員証ですね。」 と、ちょっと照れたような顔付きで社員証を受け取る久遠の胸ポケットからシンメイが半身を出し、なんとシンメイも社員証を提示。 「どうぞ今後もよろしくお願いいたします。」 小さく会釈するシンメイは、技研のロゴが入ったスーツを纏っていた。 「おや、これはこれは。 小さな社員さん、どうぞよろしく。」 結局、あの翌日。 久遠は辞職願いを出した。一悶着あったようだが、半ばごり押しの形で・・・。 そして、次なる職場として選んだのが、東杜田技研の関連会社であった。 もっとも、この会社も同じ敷地内にあるのだが。 同時に、神姫たちをアルバイトの形で、毎日誰かを連れていくことに。家で退屈な毎日を押しつけてしまうことなく、刺激的な日常が送れるはずだから、と・・・。 久遠がシンメイを交え守衛と話をしていると、通りから飽きるほど聞き慣れた野太いエンジン音が響いてきた。 「やっべ・・・つかまる前にタイムカードだけでも通すぞっ!」 その音に脂汗をにじませた久遠、大慌てでヘルメットを被りなおす。 シンメイも状況を察し、さっと胸ポケットに収まった。 久遠がフロントを軽く浮かせて敷地内に消えていった直後。 「何も逃げることないだろー!」 GSXに跨ったCTaが、守衛を半ば突破する形で久遠を追いかけていった。 小さい存在が運び、結ぶ、大きな明日。 ・・・かくして、久遠の・・・いや。 久遠たちの、新たなる日常の幕が、上がった。 <<トップ へ戻る<<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1103.html
武装神姫のリン 鳳凰杯篇 その5 あちらはマスター同士、こっちは神姫同士ということで私は部屋から逃げ出てしまったミカエルを追います。 互いに死力を尽くした(精神的に言えば彼女はもっと苦しかったと思います…)バトルの直後で"疲れ"が出ている頃。 それほど遠くには行けないと解っていてもミカエルとの距離が一向に縮まらないことでやはり私は焦りを感じてしまいます。 身体の状態など気にしないほど悲しみは彼女の心を支配しているはずです。 なぜなら、その悲しみは想像しただけでも恐ろしく神姫にとっての絶望そのものなのですから。 彼女をそのままで終わらせるのは"約束"をした仲の自分が許せない。だからこそ私ももう一度気を引き締めて必死に彼女を追います。 とその瞬間ミカエルが通路を横切ったスタッフにぶつかりました。 「うわ!」 その拍子にスタッフの持っていた工具箱。そこから無数の工具がバランスを崩し、ミカエルに向かって落ちていくのです。 ミカエルはぶつかった弾みで腰が抜けたのか、動きません。落ちてくる鉄塊を見上げることしかできないのです。 「届いて!」 私は渾身の力を込めてミカエルに向かって飛びかかります。 ほんの少しでも彼女の身体をかばう。もしくは押すだけで致命傷は避けられるはず。 自身の安全を優先するプログラムが動きを妨害しようとしますが、瞬時にそれを解除。 そうして…ミカエルの身体に私の手が… "ガシャン" そんな音を聞いたのを最後に、私の意識はそこでとぎれてしまったのです。 私が目を覚ましたのはそれから数時間後、会場に設営された神姫のメンテナンスを行う"救急救護室"のベッドの上でした。 「気分はどうだ?」 マスターがいつものように、でもやっぱり心配そうな瞳で声をかけてくれました。 「心配したんだからね~」 「寿命が縮みましたわ」 「…おかあさん、よかったぁ!!!」 花憐が飛びついてきます。どうやら家族全員に心配をさせたみたいで…そこでミカエルの無事が気になりました。 「マスター、ミカエルは?」 「ああ…」 みんなの表情がすこし曇ります、まさか… 「いや、リンが思っている様な最悪の事態にはならなかったんだけどな」 「なら…」 「記憶が…無くなってるんだ。」 その言葉を聞いた瞬間、私の"心"が痛みを感じました。 心の中に何かの間違いだとそれを拒絶する自分が居て、でも一方で現実を受け入れている冷静な自分も存在している… その2つがぶつかった様な、そんな感じでした。 「そんな…全て忘れてしまったのですか?」 「いや、自分の名前と事故の直前のこと。つまりリンが助けようとしてくれたことは覚えてるらしいんだけど他のことがさっぱりだ」 「自分のマスターが誰であったかさえも分からないのですね」 「…そういうことだ。」 「では、彼女はどうなるんでしょうか」 「引き取り手が無い場合は…施設行きだろうな」 「それも彼女にとっては悪いことではないと思うんだけどね…」 「茉莉の言うことも正論だと思いますが、でも!」 「リンの言いたいことは分かってるよ、あの子をティアみたいに引き取れって言うんだろ?」 「そこまで分かっているなら!」 私が次の言葉を発する前に救護室のドアが開かれた 「失礼します。」 それは映画やTVで見たことのあるSPそのままの人だった。 その人は、かけていたサングラスを外してお辞儀をしました。 「あんたは…」 「はい、鶴畑家の直属のSPを努めております。 岩原と申します。」 「何の用ですか?鶴は他のSPともあろう人が。」 茉莉もあの人を少々警戒しているようでした。 マスターも、茉莉も、もちろんティアも。時間が結構経ったとはいえあの騒動を皆忘れてないのです。 しかし岩原の口から出た言葉は意外なものでした。 「今回は、お願いがあってお伺いしたのです。」 「なに…?」 「ミカエル…彼女を引き取っていただきたいのです。」 「どういうことだ?」 「全ては、大紀様の願いです。大紀様は今までのことを反省しております。よほどあなたの説教が効いたのでしょう。」 コレにはみんなが驚きました。なんというか、あの人に対してはみんな「イヤミな金持ちのボンボン」というイメージしか無かったためにマスターの説教(まあ、これはマスターの癖というか性格なんでしょう。マスターは極上のお節介ですから。)を素直に聞くようには思えないのですが… 「あ、そういえば最後にそれらしいこと言ってたな。その後すぐにリンとミカエルが大変だって聞いて忘れかけてた。」 「亮輔、もしかしてすごいことしちゃったんじゃない?」 「…そうかも。」 「おとうさんすご~い」 花憐はマスターに飛びつきました。全く、この子は…とも思いつつ私マスターに抱きつければなぁなんて思ったり。 「大紀様は一からやり直そうと思っておいでです、そのためにもしミカエルが自分を認めてくれるのであればと最後の望みをかけておりましたがこのような事態になり…そして唯一残っている記憶に関連のある、あなたたちに彼女を任せたい。とおっしゃっています。」 「…話は分からなくもないのですが、ではなぜ本人が出てこないのかしら?」 そのことについてはちょっと気になっていましたが、その疑問をティアが岩原さんにぶつけました。 「もうしわけございません、先に仰っておくべきでした。 大紀様は「彼女への自分なりの償いだ」と仰いまして今までの武装データをディスクメディアにコピーする作業に没頭しております。そのディスクメディアはあなた様に渡すためとも仰っておりました。」 「で、自分の神姫はどうするんだよ」 「今までのように大量に起動させた中から能力だけで選ぶのではなく、自分で町を歩き、これだと思うパートナーを見つけるそうです。」 「今までのランクポイントは?」 「廃棄されると。」 「…なら、なおさらミカエルを受け取るわけには行かないな。」 マスターはそう岩原さんに告げます、それは私が今言おうか迷った言葉でした。 「なぜですか? 彼女にはあなた様の元で幸せになって欲しいと…それが」 「記憶が消えた…それがどうした。 外的損傷も無いし機能も正常。ならきっと思い出せる。そして全てを思い出した時にマスターが居なくてどうするんだ!」 「ですが…」 「とりあえす本人を連れてくるんだな」 マスターが岩原さんに食ってかかる寸前。 「その必要は、無い。」 鶴畑大紀がこの部屋に入ってくるなり、マスターの正面に立って言いました。 「あんた、さっきの話はつまり俺に"ミカエル"ともう一回最初からやれってことか」 「そうだ。それが一番、あの子にとって良いはずだ。」 「…」 鶴畑大紀は黙ったままどうするべきか考えているようでした。 そうして部屋野中は無音に、誰もが口を開けない…そんな中 「じゃあ、本人に決めてもらおうか」 急に茉莉が言い出したのでマスターも、ほかのみんなもびっくりしてしまいます。 「ああ、それが一番手っ取り早いかな」 「ですね。」 私もそれに賛同します。 そうしてミカエルが寝ている部屋に皆で行くことに。 記憶に残っている唯一の"知人"ということで最初に声をかけるのは私ということになりました。 眠っているミカエルのそばに寄り添い、優しく声をかけます。 「ミカエル、起きて。」 ゆっくりとミカエルのまぶたが開き、意識が覚醒していくのが分かりました。 「…リン」 「そう、リンです。あなたの友達の、リンです。」 「なんの、用?」 「それなんですが、あなたは私の子と以外を忘れていると聞きました。本当にそうですか?」 「…うん、何も思い出せない」 そうだと分かっていても本人から肯定の言葉を聞いたことでショックを受けました。でも私にはまだやるべきことが残っています。 「そうですか、私の家族や友達も来ているのですが、部屋に入ってもらってもいいですか?」 「うん、いいよ。リンの友達なら」 私の合図でマスター達が部屋に入ってきました。 「こんにちは、リンのマスターの藤堂亮輔です。よろしく。」 「私は亮輔の家族の茉莉、そしてこっちが」 「ティアですわ、よろしくおねがいしますわね。」 「花憐です~よろしくおねがいします~」 「あ、はい。よろしく」 ミカエルは一見すると感情が無いような、そんな目でマスター達の後ろにいる鶴畑大紀を見つめています。 彼女の反応次第でミカエルが私たちとともに来るのか、元のマスターの元へと戻るのかが決まるため、みんな固唾を飲んで見守っています。 1分ほど見つめた後、ミカエルの口が不意に開きました。 「そっちのお兄ちゃんたち…は、だれ?」 『やはりダメだったのか』そんな雰囲気が部屋中を覆おうとします。 しかしミカエルの言葉はまだ続いていました 「なんだか、見た目は怖いのになぜかお兄ちゃんのことが怖くないって分かる。後ろの男の人も。」 「…み、ミカエル。」 鶴畑大紀はその言葉に、人目もはばからずに目に涙を浮かべています。 なぜか後ろにいる岩原さんまでサングラスごしにハンカチを目尻に当てている。 「なあ、ミカエル。 俺と一緒にいてくれないか?」 「なんで?」 「えっと、俺が、一緒にいたい、から」 「…」 ミカエルは少々困った顔をして私に聞いてきます。 「私、どうしたらいいいんだろう?」 「ミカエルの思う通りにすればいいんですよ。」 「…わからないよ。そんなの~」 この状況は予想していませんでした、今のミカエルなら私が誘えば絶対に私たちについてきます。 でも、マスターがさっき言った様にそれはミカエルにとって最善のこととは思えないのです。だからこそ、心を鬼にして私は彼女を突き放します。 「…リン!?」 「世界はそこに生まれたモノを拒んだりしません、それは人、動物、神姫どれも同じです。だからあなたが望むままに生きて、そして自分で決断する勇気を持ってください。あの人について行くか否か。この選択はその最初の一歩です。どっちを選んでも誰もあなたを責めたりしません。だから。」 私は思いの丈を彼女にぶつけました。 あとは彼女次第です。私たちはミカエルの決断を待ちます。2分、3分、5分と時が過ぎて… 「決めた、私。そのお兄ちゃんと一緒に行く。」 「…ありがとう、ミカエル。」 その一言と同時に鶴畑大紀は泣き崩れ、岩原さんは彼を支えています。 そしてマスター達もミカエルがちゃんと決断できたことを喜んでいます。 「な、大丈夫だって言ったろ?」 「私が言い出さなかったら今日中にここまでいかなかったんじゃない?」 さりげなく茉莉がマスターにご褒美をねだっていますね、私には分かりますよ。だって家族ですから。 とりあえず、私もがんばったのでご褒美をもらっても良いはずです。だから私もさりげなく茉莉に便乗させてもらいます。 「茉莉、でもそれは私も考えてたのですが、突然茉莉が言ってしまってみんなをびっくりさせてのですよね…私は皆さんを動揺させずに言えるか結論をだした瞬間に」 「え!? ホント?」 「私は嘘は言いませんよ、ですよねマスター?」 「あ、ああ。ソウデスネ」 マスターはこの後の子とを考えて頭がフリーズしてしまったみたいですね。 今日の夕食とデザートは豪勢なものになる予感がします。 「あ~~~~~~~!!!!しまった!!」 突然マスターが大声を上げました。 何かだいじなことを忘れていたのかもしれない、それが致命的なことだったら…そんな怖気が身体を駆け巡り、私は強い声でマスターに聞いたのです。 「マスター!? なにが!?」 しかしマスターの表情はすぐさま軟らかい?というか負い目を感じてるようなものに変化。そして。 「リン、すまない。鳳凰杯の次の試合だったんだけど連絡もしてなくて棄権扱いになったw しかも連絡してないから俺のランクポイントが10減少っていうペナルティ付きでなorz」 こんな一言で返すのです。 そこで茉莉が思い出したように手をたたきました。 「あ~、あの放送ってやっぱり亮輔のこと呼んでたんだ」 「お姉様が心配するあまり、先にやるべきことを忘れてしまう…ご主人様の悪い癖ですわw」 「あ、そうか鳳凰杯の予選とミカエル戦でポイントは8稼いでたはず…マイナス2ポイントなら我慢できるな…」 「マスター、私はミカエルを救えただけで十分に満足です。ですから…今度からはそういうことは早く言ってくださいね。」 ミカエルに関することで無くて安心しつつも、こっちも十分に大事なことだったのでやんわりとマスターをしかってあげました。 そして私は茉莉にウィンクを。それで事情を察した茉莉も 「そうそう、ハッピーエンドってことでみんなでご飯食べに行きましょう~全部亮輔のおごりね」 「…ああ、ヨソウハツイテイマシタカラゴジユウニシテクダサイ」 準備を終えた鶴畑大紀の肩に乗っていたミカエルが私に声をかけました。 「リン、また遊んでね?」 「はい。ミカエルもお元気で。」 「うん、また。」 これは私とミカエルの始まり。そして 「今回は、世話になった。 いや。なりました。地道にがんばります。」 「ああ、がんばれよ、兄貴に負けるな。」 「でわ…」 マスターと鶴畑家との奇妙な関係の終わりであり、言い方を変えればこれも始まりかもしれません。 こんな感じでいつも通り、何かしらの騒動に巻き込まれてそれを解決(?)して私とマスター、そしてみんなの鳳凰杯は幕を閉じたのです。 マスターの財布の中身が一気に3桁台になるという悲劇?いや喜劇ですね。と一緒に… ~武装神姫のリン 鳳凰杯篇 Fin~